SPECIAL INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW

FREDERHYTHM ARENA 2022
~ミュージックジャンキー~
SPECIAL INTERVIEW(前編)

6月29日、国立代々木競技場第一体育館でワンマンライブ「FREDERHYTHM ARENA 2022~ミュージックジャンキー~」を開催したフレデリック。
最新アルバム『フレデリズム3』の楽曲群を通してバンドの個性を思いきり表現した同公演は、大盛況のうちに幕を閉じた。
自身4度目の単独アリーナ公演を彼らはどのような想いで作り上げたのか。
また、全30公演に及ぶフレデリック史上最長のツアーを控えた今、どんなことを考えているのか。
代々木公演から約2週間後、今後の活動に向けてインプットに励んでいるというメンバー4人に集まってもらった。

photo 森好弘

――代々木公演を終えた今、どんなことを感じていますか?

三原康司(Ba.):
MCでも話したんですけど、フレデリックってやっぱり変なバンドだなと思うんですよ。バンドを始めた当初から「フレデリックって万人受けはしないよね」と言われることがあったし、だけどそれをずっとやり続けた中で、「あ、俺らの個性を認めてくれる人たちがこんなにいるんやな」「一般受けしないと言われていたバンドがアリーナに立てるなんてすごいことだな」と思って。

――アリーナワンマンは過去3回ありましたけど、今回は特にそう感じたんですか?

康司:
常にどこかで思い続けてきたことだけど、『フレデリズム3』というアルバムで新しい音楽をやりながら自分たちらしさも貫けたので、代々木ではそこに立ち還ったんですよね。だからこそ、これからも俺らの個性を認めてくれる人たちとこのバンドの変なところを一緒に楽しんでいきたいなと。そのためにはもっとやるべきことがあるし、作らなきゃいけない曲もあるなと思いました。

赤頭隆児(Gt.):
自分たちがいいと思っていたところを「いいやろ」と言えたライブでしたね。例えば、健司くんが「サイカ」を一人で歌ったじゃないですか。俺らは一緒にバンドをやっとるから健司くんの歌がいいことを知っとったけど、あの場面があったことで来てくれた人に「いいやろ」と言えた気がします。他にもそういう場面がいっぱいあったから、ライブを終えた今、「ああ、このままでよかったんやな」「自分たちがいいと思ってやってきたことをこれからも続けていけばいいんやな」と感じていて。「ジャンキー」でやったことも変と言えば変だけど、俺ららしかったですよね。しかも最後のブロックで盛り上がりたいから派手にしたというよりかは、そういう曲やからそうなっていった。そういうふうに、「こういう雰囲気にしたい」よりも音楽が先にあるのがいいなと思ったんですよ。それは、信頼できるスタッフが客席側にいてくれていたからこそ実現できた部分だったんですけど、代々木までの3回のアリーナを経て、スタッフとの関係も自慢できるようなものになって。そこも含めて、ちょっと誇らしい気持ちになれるようなライブでした。

――演出面についても後ほど伺いますね。健司さん、高橋さんはいかがですか。

三原健司(Vo./Gt):
今回のセットリストは新譜『フレデリズム3』の曲を全部入れているので、今考えてみたらなかなか挑戦的な内容やったと思うんですよ。そのうえで、もしも『フレデリズム3』を全く聴いていない人が会場にいたとしても楽しめるライブにしようと4人で話しながら作っていったし、「挑戦的なセットリストだな」と思われないようにしたかったんですけど、実際お客さんの感想を見ていても「あの曲聴きたかったな」という感想があまりなくて。それよりも、ライブ全体の感想や「聴いたことのない曲だったけど感動した」ということを言ってくれている人が多かったので、独りよがりにならず、自分たちの想いがそのまま形になったようなライブを受け取ってもらえたのかなと思っていますね。今までのアリーナ公演の中で、ダントツでフレデリックの想いが届いた瞬間やったなと思います。それが自信に繋がりました。

高橋武(Dr.):
健司くんが言ったように、『フレデリズム3』から全曲やったことはすごく意味があったなと思っています。お客さんも『フレデリズム3』の曲を新しいものとして認識していなかったと思うんですよ。代々木までのライブで『フレデリズム3』の曲を初披露した時に初めてやった気がしなかったというか……曲を知ってる/知らないは関係なく、“どっちにしろフレデリックの音楽だから楽しめる”という感じで聴いてくれているように思ったんですよね。それはつまり、『フレデリズム3』をフレデリックの一部として理解してもらえているということ。例えば僕らが上辺だけで最近の音楽のトレンドを取り入れていたとしたら、そういう聴こえ方にはならなかったと思うんです。だから、フレデリックが普段から大事にしてきた“個性を大切にする”ということが音として形になっている公演だったのかなと。それは音楽云々以前の、人として意識していなきゃいけないもの、かつ、これからの時代より大事になっていくものだと思うので、今僕が話したことがお客さん一人ひとりにも言語化できるレベルで伝わっていたら理想的かなと思います。

――これからの時代より大事になっていく、とは?

高橋:
これは僕個人の意見ですけど、強い言葉を使って誰かを否定する場面が増えているように思うんですよ。人間同士ですから、もちろん衝突することもあるのは理解できるんですけど、根っこに否定の気持ちが根付いちゃっているというか……。僕はそういうものに抗っていきたいし、僕らの音楽を好きでいてくれる人たちにも、他人に寛容であってほしいし、理解しようとしてほしいし、自分自身の個性を大切にしてほしいという気持ちがあって。僕は周りのことを尊重できるミュージシャンが好きだし、そういう人に影響を受けてきたんですけど、同じように、僕らの音楽が誰かに影響を与えられたらと思います。

photo 森好弘

――分かりました、ありがとうございます。このインタビューでは、みなさんがどのような想いで代々木公演を作っていったのかを伺えればと思いますが、そもそも、ライブ当日を迎えるまでにどのような準備をどのくらいの時間をかけて行うのか、教えていただきたくて。

健司:
はい。

――昨年末の「COUNTDOWN JAPAN 21/22」(2021年12月30日)のステージ上でライブ開催の発表がありましたが、演奏曲や演出などを具体的に考えていく作業はいつ頃から始まったんですか?

健司:
アリーナの場合は映像を入れたりするし、各セクションのスタッフとちゃんと連携をとる必要があるので、2ヶ月くらい前に一応セットリストは作っておくんですよ。今回だったら(今年の)4月末には仮セットリストがあったんですけど、その時点では『フレデリズム3』の曲をメインにしようと思っていたものの、新曲がどんな景色を見せてくれるか分からなかったので、「ここからまた結構変わる可能性があります」「春フェスで新曲をやった時のお客さんの反応が見たいから、ギリギリまで待ってほしい」と事前に言っていました。

――仮セットリストの段階から『フレデリズム3』の曲は全部やるという前提だったんですね。

健司:
そうですね。音源もライブも別物の作品として出せるアルバムだと思っていたし、音源とは別の表現に変換できるスキルをみんな持っているので。で、ライブをやっていくうちに、「この曲は自分らがイメージしていた方向性とズレていなかったな」とか、逆に「この曲、めちゃくちゃ盛り上がると思っていたけど、どちらかというと心で聴く感じやったな」ということが分かってくるんですよ。そうしてセットリストがFIXに近づいていくんですけど、僕らの場合、セットリストが決まったとしても、音源通りには演奏しないことが多くて。

――はい。ライブならではのアレンジが加わることがほとんどですね。

健司:
とはいえ、アリーナ公演の場合は映像や照明も入ってくるので、曲と曲をどう繋ぐかとか、細かいところもしっかり決めておかないといけないんですよ。なので、「曲と曲はこう繋ぎます」みたいな音源を僕らで作って、それをチームに共有していきます。そこから少しでも尺とかが変わっちゃうと、映像や照明にも影響してしまうので、セットリストがFIXしてから「じゃあここは気分で変えましょう」ということはアリーナ公演に関してはほとんどないです。だからこそ「ここはこの曲じゃない方がよかったね」ということがないように、FIXするまでの間に懸念点はみんなでがっつり話し合いますし、全部研ぎ澄まされた状態で出来上がるから、実際「この曲じゃなかったね」ということも起こらないし。

赤頭:
当日ギリギリにセットリストを変えたりするバンドもいると思うんですけど、僕らはそういう方法は採らずに、繋ぎ方のアレンジを変えたり、SEを足したりすることで雰囲気を変える方法を採っているよね。

健司:
そうそう。もしも「思っていた雰囲気とちょっと違うな」ということがあっても、曲を変えるのではなく、例えばMCでもう一声足したりとか、メンバーの機転で何とかしています。

――なるほど。そこから、みなさんが渡した音源を元に各セクションのスタッフが演出を考えていくんですかね。

健司:
はい。1ヶ月くらいかけて考えていきます。その時に間に入って説明してくれるのが、ライブマスターズ(※ライブ制作・プロモーション会社。2015年よりフレデリックのライブ制作を手掛けている)の岩下さんで。ここが一番大事なんですけど、過去3回のアリーナ公演を経て、僕らがどうしたいのか、どんなものをカッコいいと思うのか、どんなことはやりたくないのか、という部分のすり合わせが完璧にできているし、僕らの考えをアリーナに置き換えながら提案してくれるので、そこはめちゃくちゃ信頼しています。だから僕らから「こういう演出がやりたいです」と具体的に伝えるよりも、「フレデリックのこの曲をこう展開したらこういう演出になるんだけど、どう?」と提案をもらうことの方が多いんです。例えば今回だったら「ジャンキー」でいろいろな演出があったじゃないですか。

――MVでおなじみのセーラー服&ジャージ姿の双子ダンサーが出てきて、会場内の警備員もうさぎのマスクをつけて踊り始め、スクリーンに映るリアルタイムのお客さんの姿が顔認証でうさぎに変わり、アウトロの演奏中に次のツアーの日程がスクリーンに映されるという。あれは観ていてとても楽しかったです。

健司:
僕らから伝えたのは「「オドループ」→「ジャンキー」という流れを作って、「ジャンキー」が一番盛り上がるようにしたい」ということだけで、それを踏まえて提案してもらったのがあの演出だったんです。だから僕らとしては、セットリストを決めたあと、やりたいことをある程度お話ししたら、自分たちの音楽に集中できる期間が1ヶ月あるという感じで。その後いただいた提案に対して「あ、面白いですね」「めっちゃいいですね」というふうにどんどん決まっていって、本番を迎えるという。ゲネプロをやるタイミングは場合によって違うんですけど、今回の代々木に関しては、演出も全部出来上がった状態で“1回通してみましょう”というのを1週間前にやりました。

photo 小杉歩

――スタッフの方から、今回は赤頭さんから事前に「最近こんな照明が気になっているんですけど」という話があったと伺ったので、その件についても聞きたいです。

赤頭:
インスタで照明機材の宣伝アカウントみたいなものを見ていたんですけど、そこでムービングの派手な照明を見つけて、「これやりたいな」「線がはっきり見える照明を使ってみたい」と岩下さんや照明のスタッフさんに相談したんです。だけど俺が見たやつは機材のプロモーションだったらしく、照明さんからは「これは照明を見せるためのプロモーション動画で、ステージに人がいないから、人を照らすとなるとまた話が違ってくるで」と言われて。「あ、そうなんや」と思って。なので、代々木公演の2ヶ月くらい前、春フェスのリハをしている時期に照明さんに来てもらって打ち合わせをしたんです。そういうことをしたのは今回が初めてでした。
照明さんと会話を重ねた結果、結局最初に思いついた演出はやらないことにしたんですけど、僕の中にあった「こういう要素を入れたい」というイメージは汲み取ってもらえて。そういう意見交換みたいなことがすごく上手くできたなと思っています。

photo 小杉歩

――今は赤頭さんに照明の話をしてもらいましたけど、きっと様々な場面でそういうことが起きていたんでしょうね。スタッフとより深いところで会話できていたというか。

康司:
そうですね。準備段階からチーム内でもメンバー間でも話し合えたと思います。最初に話したようにフレデリックって変なバンドですけど、だからこそ他のバンドにはない演出ができるバンドだと思うんですよ。そんな僕らの元々あった個性をどう活かそうかという意識をチーム全体で持てたのは大きかったです。あと、さっきタケちゃん(高橋)が代弁してくれたけど、人と人としてお互いの違いを認め合えることってすごく大事なことで。自分にしかない目線もあるし、相手にしか見えていないこともあるという上で、しっかり話し合って、よりいいものを作り上げることがどんどん意識的にできるようになってきていると思います。

――では、その上で、個人的に演出面で「うーん」と思ったポイントがあったので、チームとしてどんな判断があってそういう演出になったのか、聞かせていただけますか。

康司:
はい。

――「ジャンキー」でお客さんの顔がうさぎになる演出があったじゃないですか。アイデア自体は面白いけど“個性”をテーマにしたライブだったので、違う顔で違う楽しみ方をしている人たちをうさぎという画一的なシンボルに落とし込むことに私は違和感を抱いてしまったんですよね。

康司:
なるほど。

――でもみなさんの中ではちゃんと筋が通っていたからこそ、「これで行こう」と決まったんだと思うんですよ。

健司:
そうですね。4人とも「これって俺らの言っていることと合わなくない?」ということを結構敏感に感じ取るタイプだと思うんですよ。だから演出に関しても気になった部分は細かいところまでツッコんでいくんですけど、そのうえで「ジャンキー」にあんまり違和感を抱かなかったのは……これは今、「言われてみれば確かにそうだな」と思いながら考えたことなんですが、同じうさぎでも大小いろいろあったし、画面がバーッと動いているからいろいろな人がランダムにうさぎになっていったから、映像を観た時に「全員同じだな」という印象をあんまり持たなかったからなのかもしれません。

赤頭:
あと、俺らの意図としては、ファンの人がミュージックジャンキーになったのを表現したかったんですよ。

――ああ、同じ音楽好きである証というか。

赤頭:
そう。ミュージックジャンキーになったということ自体が、それぞれの形で音楽が好きだということだから……その前提が俺らの中にはあったから、全く同じには見えなかったのかもしれない。

高橋:
同じ画を見ていても、見え方が違ったのかもね。

赤頭:
そうそう。

高橋:
“個性を大事にしよう”は、もう少し噛み砕いて言うと“同じ人間同士だから個性を大事にしよう”だと思うんですよ。で、あの日代々木にいた人たちはみんな音楽が好きで、それはつまり“同じミュージックジャンキー同士”ということになるじゃないですか。だからみんながうさぎになることと個性を大事にすることは矛盾しないと僕は思っています。何だか哲学っぽい話になってきましたけど(笑)。

photo 小杉歩

――なるほど、少しずつ分かってきました。要は、ライブって、違う人生を歩んできたにもかかわらず “フレデリックの音楽が好き”という共通項を持つ人たちが集まる空間で。一人ひとりの思考も思想も違うのに、同じ空間で同じ音楽に心を傾けることができる。そういう意味で“同じ”であることの尊さを表現した演出だったのかもしれないですね。

健司:
手拍子だってみんな一緒の動きですしね。でもあれはその人が「やりたい」という意思でやっていることやし、みんなが同じ空間にいるから一緒になって見えるだけで、個性がないという話にはならないと思うんですよ。

高橋:
手拍子していない人がいてもいいしね。

健司:
そうそう。

康司:
そう考えると、“同じ”になっていることに意味を感じる瞬間もあるということですよね。そもそも俺が「ジャンキー」という曲を書いたのは、最初にタケちゃんが話していたことにも繋がるんですけど、“同じ”であることを強要するような世の中の空気に対して思うことがあったからなんですよ。誰かと同じ考えにならないと安心できない人もいると思うし、昔は俺もそう感じることがあったから、“不安だから自分の意見を人に押し付けちゃう”という気持ちも分かります。だけど、そうすると一人ひとりが生活しづらくなると思うから、“同じ”になることについてちゃんと考えてみてほしい、そんな気持ちで「ジャンキー」という曲を書いたんです。

――はい。

康司:
俺はこの曲を出すことで受け取った人に「やっぱりそうじゃないんじゃない?」と考えてもらうきっかけを作りたかったし、何か行動を起こさせる力が「ジャンキー」という曲には必要だと思っていた。だから今こうして解釈を話してくれたこと、楽曲を受け取って考えてくれたことはめちゃくちゃ嬉しいです。もちろん代々木を観てくれた人の中にも俺らにはない視点から何か考えてくれた人はいると思うし、それはフレデリックというバンドに対して何か気持ちがあるからこその行動ですよね。今の会話は素直に励みになったし、シンプルに嬉しかった(笑)。

photo 森好弘

――私もみなさんのお話を聞いて「あ、そういう考え方もあるんだ」と気づけたので、今こういう会話ができてよかったです。だから会話ってやっぱり大事ですよね。ここまで何十分も話してきて、今さらですけど(笑)。

一同:
(笑)。

高橋:
それに、今のやりとりに僕らのやりたいことが表れていたよね。お互いに思っていることをちゃんと言えていたので。

康司:
うんうん。確かに。

文:蜂須賀ちなみ

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