SPECIAL INTERVIEW
FREDERHYTHM ARENA 2022
~ミュージックジャンキー~
SPECIAL INTERVIEW(後編)
――ここからはセットリストについて聞かせてください。ライブで感じたことを反映したいからFIXはギリギリまで待ってもらったとのことでしたが、今回のセットリストの中で「当初はこういうイメージだったけど、実際にライブでやってみたらこんな曲でした」「だからセットリストの中で担わせる役割を変えました」という曲はありましたか?
健司:
「熱帯夜」ですね。フレデリックのワンマンでは、中盤に自分たちの世界観をがっつり見せるゾーンがあるんですよ。めちゃくちゃ盛り上がるわけではなく、みんなで一緒に何かをするわけでもなく、お客さんを自分たちのペースに引き込む場面というか。今回の場合は7~9曲目がそうだったんですけど。
――「Wanderlust」、「うわさのケムリの女の子」、「ラベンダ」ですね。
健司:
初めはそのブロックに「熱帯夜」が入ってくるのかなと考えていました。でもフェスでやった時に、僕がこういう動き(腕を左右に振る)をしたら、みんなが一体感の中でノッてくれて。そこで「あ、この曲は集中して聴いてもらう感じではないのかもしれない」「このライブに参加しようという気持ちで見てもらえる曲なんやろうな」と感じたんです。それやったら7~9曲目に入れるのは違うなと思ったんですけど、逆に、この一体感のままエンディングを迎えたらいいんじゃないかと。それでアンコール2曲目に変更しました。
――康司さん・赤頭さん・高橋さんの3人編成で披露した「YOU RAY」、健司さんが弾き語りで披露した「サイカ」についても聞きたいです。3人と1人に分かれるのはフレデリックのライブとしては初の試みでしたが、「YOU RAY」が康司さんボーカルの曲だから、というところからこのアイデアが生まれたのでしょうか?
健司:
そうですね。「YOU RAY」はコーラスも康司が歌っているので、僕はレコーディングで歌っていないんですよ。それは自分の中に「康司が歌うことで完成する曲だ」という想いが強くあったからなんですけど、それならライブでも自分がいない方が楽曲の世界観を表現する上でいいんだろうなと思って。そこから「その代わりに一人で何かをやろう」というふうに考えていきました。フレデリックにとってのライブの見せ方、そしてボーカリストとしての自分の見せ方に対して「こういう可能性もあったんや」と気づかされたブロックでしたね。
――3人での「YOU RAY」、演奏してみていかがでしたか?
康司:
俺がフレデリックで作っている楽曲って詞もメロディも健司が歌う想定で書いていて、「YOU RAY」もそうだったんですけど、この曲ができた時、「アルバムの幅をより広げられる楽曲になっていくんやろうな」という手応えがあったんですよ。MCでも話したように、そのあと健司が「康司の声の方がいいんじゃないか」と言ってくれたので、最終的に俺が歌う曲になったんですけど、アルバムの世界を広げるという意味で、ライブに必要なワンシーンをちゃんと作れたなと思いました。あと、歌っている時、めちゃくちゃ気持ちよくて。「この気持ちよさが会場全体に伝わっているんだろうな」と思いながら歌えたのが最高でした。
photo 森好弘
赤頭:
リハとかも含めて1曲通して演奏する機会が何回かあったんですけど、毎回違う「YOU RAY」だった気がして。例えばスタジオでのリハーサルの時は、アリーナと違って反響がないから、耳の中(イヤモニの中)で反響を再現してもらいつつ、イメージしながら演奏したんですよ。でもそれはやっぱりイメージでしかないから、本番で初めて完成したというか、あの時あの場所の「YOU RAY」はあの時にしかなかったという感覚が強くて。特に康司くんの歌は、リバーブがある時とない時で全然違うんですよ。多分無意識だと思うけど歌い方が全然違うし、「あ、今テンションが上がったな」という感情の波が毎回違う。その感じが一番よかったのが本番やったし、ある種のライブ感を一番感じられた曲でした。
高橋:
そもそも僕は「3人でやっている」という意識があんまりなくて、健司くんはただ休符なだけだと思っているんですけど――
康司:
うん。
高橋:
その前提で話すと、「YOU RAY」でのアプローチって、僕にとっては昔やっていたバンドに近いものなんです。だからいろいろ繋がったなと。自分が経験してきたものや得たもののうち、フレデリックに活かせることは既に全部活かしてきたつもりだったけど、本当の意味で全部がフレデリックの中に溶け込んだなと思う瞬間の一つでした。
photo 渡邉一生
――すごい。めっちゃ人生ですね。
高橋:
急にギャルみたいな言い方になるじゃないですか(笑)。そうですね、めっちゃ人生でした(ギャルピースをしながら)。
健司:
(笑)。今タケちゃんが気持ちとして「健司くんは休符だ」と言ってくれたのはすごく嬉しいし、自分も「3人だけど3人じゃない」「自分の想いもそっちに乗っているんだ」という感覚があったんですけど、同時に、リハとかを見ながら「3人で成立するやん」と思ったんですよ。お客さんにも「このバンドは3人でも成立するんだ」と思ってもらった方が俺は「“あ、そんなことないな”と思わせるような弾き語りをしよう」というふうに持っていけるし、3人でやったあとに1人でやるという流れを自分はすごく大事にしていたので、一番理想的な形に仕上がったなと、本番中、袖から観ながら感じていました。
――続いて「サイカ」について聞かせてください。弾き語りで歌う曲として「サイカ」を選んだ理由については、昔の自分を思い出すような懐かしいメロディと「個性を大切にしていこう」というメッセージを持った曲だから、とMCで話していましたね。また、かつては自分の喋り声がコンプレックスだったけど、3人が必要としてくれるから「この声で一生やっていこう」と思えているという話も印象的でした。
健司:
(康司が)自分の歌を信じて作ってくれた曲なので、弾き語りで歌うなら「サイカ」以外考えられないなと。やっぱりフレデリックといえば「オドループ」のようにキャッチーで盛り上がる楽曲の印象が強いじゃないですか。いい意味で歌唱力に依存していない部分があるというか、「歌唱力があるからこの人が好き」ではなく、楽曲の良さやキャッチーさ、楽しく踊れるということに対して「フレデリックが好き」という気持ちを向けてくれている人が多いと思うんですよ。でも、「サイカ」を聴いた時、そのイメージを変える1曲ができたなと思ったんです。だから歌に対する自分の気持ちを聴かせるには「サイカ」しかないなと。で、「そう思わせてくれた要素って何だろう?」と考えた結果、MCで話したような、自分の声の話に辿り着いたんですよね。代々木のステージで、11曲目に「サイカ」をやれたのは、自分で言うのもあれですけど、すごくよかったと思います。
――アリーナの広い空間で一人で歌った感想はいかがですか?
健司:
「何で今までやってこなかったんやろ」ってくらい気持ちよかったです。バンドだと、メンバー一人ひとりに信頼を置いているからこそ「ここは任せよう」という部分がいっぱいあるんですよ。だけど弾き語りではリズムの取り方も間の取り方も全部自分次第だし、自分がどう動くかによって空気がめちゃくちゃ変わる。でもそれもすごく楽しめるようになったし、歌えば歌うほど自分が肯定されていく感覚がありました。なので「何で今までやってなかったんやろ」という気持ちもありつつ、例えば1~3回目のアリーナやったら、この良さに気づけていなかったのかなと思います。
photo 森好弘
――健司さんの弾き語りを聴いて、お三方はどんなことを感じましたか?
康司:
「サイカ」を書いてよかったなと思いました。健司がMCで話してくれた通り、互いの才能を認め合うこと、尊重しあうことをテーマにした楽曲なので、「この日のために書いたんじゃないか」と思ったくらいです。
赤頭:
僕、フレデリックの曲を歌ってくれている人たちの動画を観ることがあるんですよ。で、そういう動画の人たちって淡々と歌っている人が多くて、多分、健司くんの歌い方を真似ようとしてそうなっていると思うんですけど、その歌い方は僕のイメージとは違うので「健司くんはこういう感じじゃないんだけどな」「もっと違う面もあるんだけどな」と感じていたんです。そんななかで、あの弾き語りでは自分の思っとる「健司くんってこうなんやで」というのをみんなに見てもらえた気がして、ドヤって感じでした(笑)。だから動画とかで歌ってくれている人も観に来てくれていたら嬉しいですよね。
高橋:
僕も、すっごいボーカルの人とバンドをやっているんだなって思いました。
健司:
めっちゃ恥ずかしい(笑)。
高橋:
バンドのメンバーってずっと一緒にいるけど、人間同士だから日々変わっていくじゃないですか。だからセッションミュージシャンが初めて顔を合わせた相手を知ろうとするのと同じように、「一緒にいるからといって分かった気になってはいけない」と日頃から心がけているんですけど、それにもかかわらず、あの弾き語りを聴いて僕は「あ、健司くんってこんなにすごいんだ」って思ったんですね。健司くんが自分の想像よりもカッコよかったということ自体は素晴らしいことだし、感動的なことだし、嬉しいことだと思いつつ、メンバーのことをもっと理解しなきゃなと思いました。
――ここまでの話で何回か出てきたように、今回の代々木公演は「個性を大切にしてほしい」「あなたにはあなたらしく生きていてほしい」というメッセージが真ん中にあるライブでした。そして、ここからは私見ですが、2020年以降、今目の前にいるお客さんに「生きていてほしい」と力強く伝えるようなライブをするバンドが増えた印象があります。みなさん自身はコロナ禍を経て、同じ時代を生きているバンドの活動を見て「自分たちと近いことを考えているかもしれない」と思うことはありますか?
photo 小杉歩
健司:
「同じものを見ているな」という感覚はどのバンドに対しても感じますし、逆に言うと、「どう足掻いても同じ対象になってしまうよな」とも思います。
――それくらい大きな出来事だったと。
健司:
はい。コロナがきっかけで、どのバンドも一度は自分の気持ちに向き合ったでしょうしね。例えば3年前だったら、フェスでいろいろなバンドを観ていても、悩みの対象がそれぞれ違っているなと感じていたんですよ。自分たちの現状を打破したくて「もっと上に行きたい」という気持ちでライブをしている人もいれば、「それよりも、今いるお客さんに感謝を伝えたい」という人もいたし、「自分たちのエンターテインメントをより好きになってもらうためにはMCでとんな言葉をかけたらいいか」というところで戦っている人もいた。その頃と比べるとかなり変わったなと思いますし、その変化は、僕自身フェスに行ったり、他のバンドの人と会話をしたりする中で感じています。
高橋:
同時代性というのはすごく分かりますね。この話題、僕の中では前半で話したことと繋がるんですけど、僕らが個性を大事にしながら音楽をやっているのは、音楽に関わらず、人として生きるうえでそれが大事だと思っているからだし、同じようにどのバンドも共通して「人としてこれは大切にしていきたい」というものに対する気持ちが強くなっていると思うんですよ。だから、ここ数年でミュージシャンと聴き手の目線がより近くなっているという印象はあります。一時はライブができない時期もありましたけど、その時に悩んでいたのはいつもライブに足を運んでくれているお客さんだけではなくて、僕らも同じでしたから。
康司:
「音楽で誰かを元気づけたい」という気持ちはどのバンドも同じだと思いますし、「この音楽があるから生きられる」という人のことをみんなすごく意識していると思います。で、だからこそ、自分の音楽を磨こうという話になるんですよね。
photo 森好弘
――なるほど。
康司:
フェスとかで他のアーティストのライブを観ていると、やっぱりたくさん刺激を受けるんですよ。「このバンド、カッコいいな」「自分にはこれはできないな。羨ましい」と思うこともあります。だけどそれは逆に言うと、俺らには俺らにしかできないことがあるし、俺らには俺らにしか伝えられないメッセージがあるということ。それを求めている人たちが「フレデリックの音楽を聴きたい」と思った時にいつでも来られるように、常に活動をしておかなきゃいけないよな、こんな時代だからこそ自分の個性を磨いていくべきだよな、と改めて感じているところです。そしてそれは、最初に話したように、俺らが元々持っていたメッセージ、バンドの一つの柱でもあって。
健司:
僕はMCで「音楽を愛してもらいたい」「フレデリックだけじゃなくて、いろいろな人のライブに行ってより音楽を好きになってもらいたい」という話をよくしますけど、代々木でもそういうMCをしましたし、コロナ禍になってもその気持ちは変わらなかったんですよ。自分たちが大事にしているもの、伝えたいことは3年前からいい意味で変わってないなと思います。
――そんな気持ちを携えて、みなさんは9月から「FREDERHYTHM TOUR 2022-2023~ミュージックジャーニー~」に出発します。来年3月に大阪・東京で行われる初のホールワンマン「FREDERHYTHM HALL 2023」も含めると全30公演という、フレデリック史上最長のツアーです。なぜこのタイミングでそのようなツアーをまわろうと思ったんでしょうか?
健司:
一番は「会いたい」という気持ちが強かったからですね。2020年春に、元々自分たちが日常としてきた、目を合わせてライブをして……ということができなくなって、ミュージシャンもお客さんもかなり絶望的な状況になったと思うんですよ。そんななかで、ミュージシャンと聴く人の心を繋いでくれたツールの一つがオンラインライブで、フレデリックは「どんな状況になっても楽しいものを提示し続けよう」という想いで「オンラインライブにはオンラインライブの楽しみ方があるんだよ」というアプローチもしていきました。そういうものをちゃんとお届けできたからこそ、ライブハウスでの楽しさに改めて気づくことができたし、今はとにかく「ただただ会いたい」という気持ちが強いんですよね。9月から始まるツアーは、その気持ちを具現化したツアーです。全30本ということで、今までやってこなかった……というか、想像すらしてこなかったツアーがここから始まるなんて、すごく楽しみだなと思います。
――どんなツアーにしたいですか?
高橋:
「ミュージックジャーニー」という旅がテーマのツアーで。僕らはもちろん全国を旅するけど、会場に足を運んでくれる人も今人生という旅を歩んでいる最中だから、それが交わる場所がライブハウスになればいいよね――ということを、康司くんが言っていたんですよ。僕も本当にその通りだなと思うし、それぞれの人生が交わって、新しいものを持ち帰れる場になればいいなと思っています。あと、これは僕個人の意見ですけど、生でライブを観たことがある人とそうでない人では、例えば今後またオンラインライブがあった時に、聴こえている音が全然違うと思うんですよ。だから生で観られる機会があればぜひ足を運んでほしい。いつどう状況が変わるか分からない世の中なので、ライブはやれる時にやりますし、来られる時に来てもらいたいなと思います。
康司:
こないだの代々木公演では、フレデリックの個性を認めてくれた人たちが集まってくれたので、だからこそ次は俺らが全国のいろいろな場所に行って、しっかり届けに行きたいなと思います。あと、前半で話したように、考えの違う人たちが同じ場所に集まれる機会ってなかなかないと思うんですよ。エンタメはいろいろとあるけど、俺らにとってはそれができるのがライブだから、その素晴らしさを感じながら一つひとつまわっていきたいです。
健司:
フレデリックは今年の5月くらいから、ライブに対する意識がすごく変わりました。「こうやったらもっと楽しめるな」とより追求するようになったし、単純に表現が広がったし、実際代々木でもそういう部分が見せられたと思います。それを経て、8~9月の夏フェスについては、フレデリックを知っている人/知らない人に関わらず、楽しんでもらえる空間を作りたいと考えている最中なんですが、そのあとすぐにツアーが始まるということで、自分たちとしても期待しかないです。もしも迷っている人がいたら「絶対に来てほしい」と伝えたいですね。
康司:
ツアーが始まると言っても、何となく「これまでと同じような感じかな」という印象を持たれちゃうんじゃないかと思うんですよ。だけど今までのツアーとはまた違うものになると思うし、「何これ、全然違うツアーじゃん」「めっちゃ面白い!」と思ってもらえるようなものを作っていきたいです。
赤頭:
ライブハウス、Zepp、ホールという順にまわるんですけど、僕らはいつもその場所に合ったライブを作っているので、ライブハウスではライブハウスならではの楽しみ方を、ホールではホールならではの楽しみ方をしてもらえるんじゃないかと思います。ライブって大きな音で鳴っている音楽をただ聴きに行くだけじゃなくて、体験するものやと思うんですよ。ライブに来たことがある人はそれを知っていると思うからまた味わいに来てほしいし、まだ体験したことのない人は、想像より楽しいと思うから1回来てほしいです。あとは、やっぱり日数が多いので、僕らの頑張りどころですね。何か健司くんは最近走っとるし、俺も何かせなと思っているんですけど……。
健司:
いや、俺は隆児にプレッシャーを与えるために走っているわけじゃないんだけど(笑)。そんな比較対象にされたら嫌やん(笑)。
康司、高橋:
(笑)
赤頭:
でも初めての日数やから全然想像つかなくて。
健司:
20代前半でやるようなツアーやもんな。
康司:
未知のツアーになりそうなので、楽しみです。
photo 小杉歩
文:蜂須賀ちなみ