フレデリック、全国ツアーライブハウス編を完走。「今日はあなたの音楽人生を更新します」

フレデリックの全国ツアー 「FREDERHYTHM TOUR 2022-2023~ミュージックジャーニー~」LIVE HOUSE編が11月13日、金沢EIGHT HALLで幕を閉じた。

ツアータイトルの「ミュージックジャーニー」は、全国20ヶ所のライブハウスを訪れる“旅”をするバンド自身の人生と、人生という“旅”を歩んでいる最中にフレデリックのライブに脚を運んだ観客一人ひとりの人生が、交わる場所としてのライブ空間の尊さを表現した言葉だ。ライブを通じて各公演の来場者と熱を交わし合ったのはもちろん、道中では各地の名所を訪れたり、自然に触れたりと、その土地土地の空気を吸いながら音楽を奏でた2ヶ月間が、この金沢公演を以って終了した。

なお、現在フレデリックは自身最長の計30公演のツアーの真っ只中で、ツアーは今後もまだまだ続く。11月25日からは5ヶ所8公演のZepp編がスタート。来年3月に大阪・オリックス劇場、東京・NHKホールで行われる初のホールワンマン「FREDERHYTHM HALL 2023」がツアーのフィナーレとなるが、この記事では、一つの節目となった金沢EIGHT HALL公演の模様をレポートする。

photo Hoshina Ogawa

SEに組み込まれた「フレデリズムツアー、始めます」という音声を合図にステージに走ってきた赤頭隆児(Gt)を先頭に高橋武(Dr)、三原康司(Ba)、三原健司(Vo/Gt)の順に登場。メンバーの表情は既に明るく、ツアーを通して充実の日々を過ごせていることがまず初めに伝わってきた。高橋のフィルインをきっかけに演奏がスタート。観客のわくわくした気持ちを後押しするようにクレッシェンドするバンドサウンド。「ミュージックジャーニーへようこそ! 金沢EIGHT HALL、いつもお世話になってます。あなたにとっての最高の1日をお届けしたいと思っているので、1曲目からぶちあげていいですか、金沢!」という健司の言葉を経て、観客の手拍子がもう一段か大きくなった。そうして1曲目の「ジャンキー」がスタート。バンドも観客も相手に対して前のめりで、想いの両矢印が見えるようなオープニング。フロアとステージの距離が近いライブハウスならではの熱量が早速生まれた。健司もギターを持ち激しくカッティングするのは「TOMOSHI BEAT」で、赤頭のギターリフが始まりを告げる「かなしいうれしい」含め、バウンドするようなリズム隊のニュアンスが心地よい。高まる気持ちのまま手拍子する観客の姿を見て、笑顔になるメンバー4人。この空気の中で楽器を鳴らすのはさぞかし気持ちがいいだろう。特に康司は幸せに浸りながらベースを弾いていて、「KITAKU BEATS」では自分が歌う箇所でうっかり入りそびれそうになる一幕も。

photo Hoshina Ogawa

「ついにファイナル、やってきました。でもさ、そんなん関係ないねん。あなたにとって、あなたの音楽人生にとって、一番楽しかったと思える2時間をお届けします」と健司。いつどのタイミングのライブであっても等しく大事と強調するが、一方、一人の音楽好きに向けて作ったというこのセットリストが披露される最後の日という意味では思い入れがあるようで、「このセットリストともお別れということで、バンドもめちゃくちゃ気合い入ってます」と、さらに「今日はあなたの音楽人生を更新します」と意気込みを伝えた。

photo Hoshina Ogawa

次のブロックでは、音楽に対するバンドの想いが伺える3曲をチョイス。余白があって甘酸っぱい序盤から、走り出したくなるような気持ちを表現した終盤へのグラデーションが美しい「夜にロックを聴いてしまったら」、迫真の演奏で真摯なメッセージを伝えた「シンクロック」と目の前で展開される音楽風景に、同じ音楽好きという意味ではフレデリックの“同志”である観客も、それぞれに自分だけの想いを重ねていたことだろう。燃える太陽を思わせる照明が浮かぶ中、情熱的に鳴らした「熱帯夜」では、赤頭のリズミカルなギターワークに観客もメンバーも身体を揺らす。健司のロングトーンのみを残してバンドの音が止んだ。

photo Hoshina Ogawa

8~10曲目は、公演ごとに違う曲を演奏した日替わりブロック。フレデリックは金沢のオーディエンスに対して「(ライブ中の)ノリやファッションを見ていると、芸術、カルチャー全般が好きなんやなと感じる」そうで、そういった理由から選ばれたのは、インディーズ時代からの楽曲「bunca bunca」だ。腹に響くベースリフ。鮮やかなキメ。アルペジオ的なフレージングから間を空けずに始まるギターソロが渋い。次に披露された、メジャーデビュー作『oddloop』収録曲「人魚のはなし」の世界観は童謡に近く、導入の語りも含め、この曲におけるボーカルは語り部のようなイメージだろうか。歌詞に綴られた物語を伝えることに重きを置いたパフォーマンスが続くが、曲が進むとともにバンドが前に出てきて、アンサンブルのバランスや健司の歌い方が変化することによって、ボーカルも“一人称の声”としての佇まいに変わっていく。さらに濃密なムードはまだ途切れず、ここで「ラベンダ」を披露。6月の代々木公演でも鮮烈な印象を残した『フレデリズム3』収録曲がまた新たな表情を見せてくれた。

photo Hoshina Ogawa

高橋も前に出てきて和気あいあいとトークしたMCでは、ツアー中、全国の様々な美術館に行ったという康司が「金沢21世紀美術館には不思議な魅力がある」「自分の中では空気感ランキング1位」と感動。また、前々日の長野から移動する際、黒部ダムにも行ったとのことで、高橋が「(放水の)音圧がすごかった」と語ると、康司が「でも、一番アガる音って拍手なんですよ」と重ね、フロアからの拍手を浴びるメンバーたちだ。さらに、今制作中の新曲をサプライズで披露。ディスコ調ながらサビに向かう際のビルドアップなどEDM要素もあるアッパーチューンで、身体を揺らしたり手拍子をしたりと素直にリアクションしていた。未完成の曲を披露した意図としては、音源化された際、ライブに来た人が「あ、この曲、こう変わったんだ」と楽しめるのもいいんじゃないかと思ったからとのこと。ライブでの手応えを踏まえて曲の行く末が変わることも、もしかしたらあり得るのだろうか、と想像が膨らんだ。

photo Hoshina Ogawa

手のひらでスネアを叩くことでより感情的なニュアンスを表現したあと、スティックを持ち、キックを踏みながらのスネアロールへ……という高橋の多彩なソロプレイに、康司、赤頭が加わるセッションを経て、そのグルーヴを引き継ぐ「まちがいさがしの国」へ。「バンドはさ、音楽はさ、ナマモノなんですよ」、「あなたの生き様と俺らの生き様がぶつかったこの後半戦、どうなっていくんでしょうかね? あなたの思い出全部ください。俺らが跳ね返したります」(健司)と、ライブアレンジをふんだんに盛り込んだ「Wake Me Up」、「リリリピート」、「YONA YONA DANCE(フレデリズム Ver.)」で畳み掛ける最終ブロックだ。「オドループ」では「ついてこい!」とアウトロでテンポアップ。ステージとフロアが同じ高揚感を共有している。

photo Hoshina Ogawa

「どんなライブであっても、その日ステージに居場所を与えてもらえるなら、人生で一番いいライブをしよう。それを13年続けてきたから、あなたに会えました。これからも俺らは変わりません。20年後、30年後も多分同じことを言ってると思います。そういう生き様を見せていけるバンドとしてやっていこうと思ってるので、早い話、これからもよろしくってことです」(健司)と、ライブの場が再び人生の交差点となる未来に想いを馳せたあと、疾走感溢れる「名悪役」で本編は終了。そしてアンコールでは、新曲「MYSTERY JOURNEY」を11月16日より配信することを発表した。なお、「MYSTERY JOURNEY」は今回のツアーで披露してきた新曲とはまた別のもので、ツアー中に制作した旅ソングとのこと。MCでは健司が2ヶ月で訪れた20都市全てを暗誦する一幕もあったが、「1本1本がハイライト」だった日々で4人が得たもの、感じたことがこの曲に反映されているのだろう。

photo Hoshina Ogawa

節目の日に宛てた「オワラセナイト」のあと、「例えばさ、1曲目にやった曲をもう1回やったらあなたたちはどう楽しんでくれるのかな?」(健司)と、ライブのオープニングでも披露した「ジャンキー」を再び演奏。床が揺れるほどの盛り上がりを生み出すことで、“今が一番カッコいいバンドでありたい”というスタンスを示すとともに、“ゆえに未来は今よりさらに最高なはずだ”という希望、爽やかな余韻とともにライブを締め括った。ツアーの今後の公演で見せてくれるであろう、最新版のフレデリックも楽しみだ。

■セットリスト
1.ジャンキー
2.TOMOSHI BEAT
3.かなしいうれしい
4.KITAKU BEATS
5.夜にロックを聴いてしまったら
6.シンクロック
7.熱帯夜
8.bunca bunca
9.人魚のはなし
10.ラベンダ
11.まちがいさがしの国
12.Wake Me Up
13.リリリピート
14.YONA YONA DANCE(フレデリズム Ver.)
15.オドループ
16.名悪役
EN1.オワラセナイト
EN2.ジャンキー

文:蜂須賀ちなみ

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